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IBBY世界大会に参加して 

むすびめの会(図書館と在住外国人をむすぶ会)の会報「むすびめ2000」73号2010.10に、9月のIBBY世界大会に参加しての所感を書きました。以下、転載いたします。
むすびめの会では、さまざまな情報発信もしています。ご興味のある方、ホームページをご覧ください。
http://www.musubime.net/

IBBY(国際児童図書評議会)はご存知ように、子どもの本を通じて平和な社会をつくることを目的に1953年にイエラ・レップマンによって設立された組織です。2年に1度の世界大会には、加盟する72の国や地域から人々が集まります。今年の9月8日から12日まで、第32回世界大会がスペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ(以下サンティアゴとする)で開催され、私もそれに参加してきました。

スペインでは、スペイン語のほかに3つの言語が公用語とされています。全国で通じるスペイン語のほか、カタルーニャ地方やバレンシア地方ではカタルーニャ語、バスク地方ではバスク語、ガリシア地方ではガリシア語が話されています。使用の割合はというと、たとえば2008年の書籍出版点数の比率が、スペイン語が77.8%、カタルーニャ語が13.9%、バスク語が1.9%、ガリシア語が2.3%という具合です。
今回の大会が、スペインの中でも少数言語のガリシア語が話されている、サンティアゴという都市で開かれたこと自体、大会テーマ「マイノリティの力」を象徴しているといえるでしょう。
「社会はマジョリティ(多数派)に支配されているが、社会を変える力、内的活力を持っているのはマイノリティ(少数派)である」として、マイノリティの力の価値をみなで確かめあい、世界の民族の共生へとつなげようというのが、「マイノリティの力」という言葉であらわされた今回の大会の趣旨でした。

実を言うと、私がIBBYの世界大会に参加するのはこれが初めてでした。スペインで開催されると知ってから、参加してみたいと思っていましたが、絶対に行こうという決め手となったのは会長のパトリシア・アルダナ氏の存在でした。カナダにある多文化、多言語の児童書出版社の代表であるアルダナ氏は過去来日されていて、2007年国際子ども図書館で「多文化社会における児童書・児童サービス」と題する講演を行っています。在日の中南米の親子が読むようなスペイン語と日本語のバイリンガルの本を作るすべがないかと考えていた私たち「日本ラテンアメリカ子どもと本の会」のメンバーは、2009年の夏にアルダナさんが再来日されたとき、直接氏とお話をする機会を得ました。その際、文化出版に関する経験と深い考察に魅せられ、この大会にぜひ参加しようと決心したのでした。

5日間の大会のすべては報告しきれないので、特に心に残ったものについて記しますがスペイン語の発表に偏ることをお許しください。まずはアルゼンチン出身の識字教育の第一人者エミリア・フェレーロEmilia Ferrero氏の基調講演。言葉の違いは識字の障害にならない例を示し、書き言葉を手渡す大切さを論じました。子どもの本というと、日本では楽しむものという意識が強いですが、大会中にきいた実践報告では、ブラジル、ボリビア、コロンビア、ガーナ、インドなど世界各地で、本を手渡すことが識字とつながり、識字が貧困や暴力という悪の連鎖からの脱出の手がかりとなっていることが伝わってきました。フェレーロ氏の講演は、多くの活動の理論的なささえになっているようでした。

マヤの昔話をスペイン語や英語で書き起こしている、グアテマラ人のビクトル・モンテホVíctor Montejo氏の講演も心に残りました。幼いころから母親が語るお話を聞いて育った氏は、大人になってから自分を同一化できる物語の大切さを知るようになり、マヤの文化を消さない抵抗の手段として、昔話を書き残し続けているそうです。

フランスの社会学者ミシェル・ペティトMichèle Petit氏の報告も興味深いものでした。思春期の2年間をコロンビアで過ごしたぺティト氏は、1990年代にはパリ郊外の移民などマージナルな子どもたちの読書活動を研究テーマにしてきた社会学者ですが、1998年にジュヌビエーヴ・パット氏の誘いでメキシコに行ったのがきっかけで、アルゼンチンなどラテンアメリカの読書推進活動に深くかかわるようになりました。アンデス地域で、アイマラ語で風の詩を書かせた例などを紹介し、「読書と出会うことで、危機にある子どもたちは、より生きやすい場所を見つけることができる」「読書は、自分自身の芸術の小屋を建てるようなこと」と力強く語りました。スペイン語で出版されている4点のペティト氏の著作を、今後日本でも紹介していけたらと強く思ったものでした。

もうひとつ、とても印象的だったのが、移民の子どもたちと字のない絵本を読むという活動を疑似体験するワークショップです。ショーン・タンのThe arrival と、デイヴィッド・ウィズナーの『漂流物』(BL出版)の1場面を見せ、思ったこと、感じたことを口頭や筆記で表現させるというもの。第二言語を未習得でも参加でき、字がないことで、こう読むべきではという考えに縛られず、子どもたちが自由に発言できるようだった、自分の体験と重ね合わせながら、回を重ねるごとに積極的に表現しようとするようすが見られたなどの所見があげられていました。この活動はスペイン、イギリス、アメリカ合衆国、オーストラリアの4か所で同時に行われましたが、どの国でも子どもたちはよく参加し、表現した内容には共通点が多かったそうです。これは日本でも、多国籍の子どもたちが集う場での読書活動への、一つのヒントになる気がしました。

大会では、参加者全員にPartes de un todo/Parts of a whole/Partes dun todo (「みんなで一つ」とでも訳せるでしょうか)というブックリストが配られました。文学や図書館が多民族を受け入れる多文化の場となることを願ってまとめられたリストで、読書推進を目的とするスペインの財団が、合衆国の図書館員の協力を得て選んだ132点のスペイン語、英語、ガリシア語の本が紹介されています。この資料は以下で公開されていますので参考にしてください。 http://www.fundaciongsr.es/salamanca/Partes_de_un_todo.pdf

IBBY朝日国際児童図書普及賞を受賞したガーナのオス子ども図書館基金の活動もすばらしく、子どもの本をめぐって世界がつながっていることを実感した5日間でした。

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コメント

私は 54歳のおばさんですが、今放送大学(京都)の学生です。そこでスペイン語にめぐり合い、今月30日より、4月末まで、初めてスペインにプチ留学を兼ねていきます。卒論にできれば、絵本などの、翻訳などができたらと、夢みたいな事を考えています。最近ベラスケスの十字の謎を、わくわくして読みました。文化、歴史が好きです。もし何か本をご紹介していただけると、嬉しいです。

投稿: 石橋 薫 | 2011年3月24日 (木) 12時33分

石橋さん、『ベラスケスの十字の謎』を読んでくださりありがとうございます。学生さんでプチ留学、すてきですね。
ぱっと思いうかぶ本はありませんが、今はマドリードにもバルセロナにも充実した児童書専門店がありますので、そちらで実際にご自分で手にとって選んでみてはいかがでしょうか? 店員さんも、相談にのってくれます。
また図書館を利用することもできます。
本屋さんや図書館ならご紹介できますので、よろしければ留学先の都市名を教えてください。

投稿: ミランフ | 2011年3月25日 (金) 00時27分

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