ひとりごと

ラテンアメリカの絵本の楽しみ&しんぱいひきうけ人形づくり

ひょんなご縁から世田谷親子読書会に呼んでいただき、今日この演題でお話をしてきました。

これまでスペイン語圏の本のことや、自分の訳した本のことを話したことはありましたが、今回は、小さなお子さんがいらっしゃるお母さんも多いときいて、このテーマにしました。
最初に、スペインやラテンアメリカが、歴史的に見て、どんな地域で、どんな特長があるか、ちょっとお勉強的に説明したあと、スペインに始まって、メキシコからアルゼンチンまで、自分の訳したものもそうでないものも含めて28点の絵本を紹介。
それから、同行してくれた「日本ラテンアメリカ子どもと本の会CLIJAL」のメンバーにアンソニー・ブラウン作『びくびくビリー』を読んでもらい(彼女の読み聞かせが、いつもながらとてもすてきでした!)、「しんぱいひきうけ人形」が、グアテマラでどういうふうに作られているか、文化背景などを私が説明。その上で、お人形をつくりました。1人1人、さまざまなお人形ができあがり、これでみんな今日はしんぱいごとがなく、ぐっすり眠れることでしょう。
講演の内容を決めたとき、「ラテンアメリカの絵本」だけでは参加者が集まらないかなという懸念もあって、「しんぱいひきうけ人形づくり」を加えてみたのですが、これは大正解でした。
何よりも、みなさんとても楽しそうに作ってくれていたから、そして、お人形が手元に残ることで、絵本のこともより印象深く思い出してもらえそうに思えたから。今日紹介した本を図書館で見かけたとき、「そういえば、これ、あのときの本だ」と手にとってもらえるといいな、と思っています。

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2012年度の仕事

<翻訳>
・マリア・ウェレニケ『パパとわたし』(光村教育図書)
・イザベル・マルチンス文/ベルナルド・カルヴァーリョ絵『すきすきパパ』(光村教育図書)

<雑誌>
・Yo no tengo soledad (NHKテレビでスペイン語 3月号 Leer y cantar)
・Leelefante (クーヨン4月号 世界の子どもの本専門店から25)
・「個性的で感性ゆたかースペイン語圏の絵本たち」(この絵本が好き! 2011、平凡社)
・共に生きていく――ラテンアメリカに目を向けて(保育情報雑誌4月号 巻頭言)
・ラテンアメリカの本と子どもたち(子どもと読書5・6月号 巻頭言)
・子どもの本を愛する世界の人と:国際児童図書評議会ロンドン大会に参加して(婦人之友11月号)

昨年は、秋に豊川市の小学校でラテンアメリカの図書展を開催する準備をしたり、ちょこちょことお声がけいただいてお話をしたり、JBBY(日本国際児童図書評議会)の関係で、8月にロンドンの世界大会に行きブースを出したり、10月にはイギリスの作家デイヴィッド・アーモンド氏の来日講演の実行委員会で動いたりと、なかなかダイナミックな1年でした。
また、スペイン語に関しても、大学の授業といつもの通信添削のほかに、講読講座でハビエル・マリアスやガブリエル・ガルシア=マルケスを読み、熱心な受講生の方と有意義な時間を持つことができました。

ミランフ洋書店の2012年の一番の話題は、メキシコのエディシオネス・エセエメの本を輸入できたこと。ショップページになかなかアップできないのが悩みの種ですが、ボチボチと充実してきました。各種図書館から注文をいただけるようになってきたのもニュースでした。ありがとうございました。

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講演会「多様な子ども時代に目をむけてースペイン語圏の子どもの本から」

来週の土曜日に、下記の講演会でお話します。

親子読書地域文庫全国連絡会の代表の広瀬恒子さんには、いくつかの訳書を評していただいたことがあり、今回、よんでいただけて、とても光栄に思っています。

『ペドロの作文』『ピトゥスの動物園』『むこう岸から』『雨あがりのメデジン』『ポインセチアはまほうの花』など、これまでに翻訳してきた本の中の子ども像に焦点をあてて、そこから何が見えてくるか、またそれらの本とどんなふうに出会ったかを、お話する予定です。
日本ではマイノリティーのスペイン語圏の児童文学。「外国=欧米」というモノサシをあてないで、スペイン語圏の現実とそこから生まれた子どもの本をとらえるヒントになれば。

日時:6月23日(土)13:00-
テーマ:多様な子ども時代に目を向けて
ースペイン語圏の子どもの本からー
講師:宇野和美
会場:豊島区勤労福祉会館6Fホール
    http://www.toshima-mirai.jp/center/e_kinrou/
参加費:無料
主催:親子読書地域文庫全国連絡会
*どなたでも参加できます。直接会場にお越しください。

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仕入れ奮闘記

ミランフ洋書店を開いたとき、仕入れ先はスペインの書籍輸出会社1社でした。でも、そのうちに、ラテンアメリカの本もほしくなって、現在6社から子どもの本を仕入れています。

今、開拓しようとしているのがメキシコ。具体的に話が進んでいるのが、ラテンアメリカ各地でも出版しているスペインの大手出版社です。その出版社がスペインで出している本は書籍輸出会社経由で仕入れているのですが、そこではメキシコで出ている本は買えません。グアダラハラの図書展に通ううちに、どうしてもメキシコの本も欲しくなって、こないだから本腰をいれて交渉しはじめました。

それにしても、それがなかなか一筋縄ではいかないのです。
今まで、私がしてきたことを順番に説明すると・・・

1、昨年11月末のグアダラハラの図書展で、「メキシコで出ている本がほしい」旨を営業担当の人にたずねる。
→すべてスペインで一括して扱っているので、スペインの営業部に問い合わせろという返事。

2、東京国際ブックフェアのときにコンタクトがあった、営業担当者にメールで打診。
→返事なし。再度、メールするが返事なし。

3、メキシコの営業部にメール。
→ナシのつぶて。ここまでで3ヶ月経過。

4、やっぱりダメかなと思ったけれど、あきらめきれず、同出版社のメキシコの編集部の女性に、「日本在住のラテンアメリカ出身者が喜ぶ本もあるから買いたいのに、営業部に連絡しても返事がない。きっと小さい店なので相手にされないのであろう。なんとかならないだろうか」と泣きつく。
→彼女から営業担当者に手配せよというメール、ccで届く。そこで、私のほうからも、その営業担当者に、よろしくとメール。「なんなりと言ってきてくれ。輸出できる本がどうか調べるので、ほしい本のタイトルを教えよ」と返事があり一安心。

5、大喜びで、ほしいタイトルを連絡。

6、1ヶ月たっても返事なし。どうなっているかと問い合わせのメールを出す。
→営業担当者から、別の営業担当者に「見積もりを出すのを手伝ってくれ」というメールがccで届く。

7、「前のメールは、輸出できるかどうか調べると言われてタイトルを出しただけ。数量を書いていないので、見積もりはできないだろう。どのタイトルが輸出できるかと、条件をまず知らせてくれ」と、もう一度営業担当者にメール。

8、1ヶ月たっても返事ないので、またまた督促のメールを出す。
→ようやく輸出可能タイトルリストが届く。

で、今はというと、同じ作家の同じシリーズでも、リストにあるもの、ないものがあるので、再度、「この本はダメなのか」と一部の本を確認中。…いやはや、長い道のりです。
このあと、注文をしたとして、夏休み前に本が届くのか、それもあやしい状況。

ふー。
でも、「もう、やんなっちゃうなあ」とは思うけれど、「けしからん」とは思わないからやっていけるのかもしれません。何事も、一度ですまないのがスペイン語圏の常(では、ありませんか、みなさん?)。
でも、こういうゆる〜いところが、社会の緩衝剤になっている気がします。間違いを許しあえる社会というのか。
まあ、そうは言いながらも、ときどきかなり腹をたてていますが。

そんなわけで、何事も計算どおりにはいかないのですが、なんとか少しずつ並べる本をふやしていく予定です。ブラジルの本も仕入れたいけれど、こちらも手強そう。まずはこのメキシコがすんだらとりかかろうと思っています。
気長にご期待いただければ幸いです。


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2011年下半期の仕事

<翻訳>
アルフレド・ゴメス=セルダ著/鴨下潤挿絵『雨あがりのメデジン』(鈴木出版)2011.12
ハイロ・ブイトラゴ文/ラファエル・ジョクテング絵『エロイーサと虫たち』(さ・え・ら書房)2011.9

<ほんのちょこっと執筆>
中川素子・吉田新一・石井光恵・佐藤博一編集『絵本の事典』(朝倉書店)2011.11
(pp.248-249 スペイン の項目)

<雑誌>
・ミランフ洋書店 ただいま開店中(イスパニア会会報第39号、pp20-21)
・知られざる一面に光を当てる スペイン南部の文化史、社会史、大衆文化―『集いと娯楽の近代スペイン』書評(週刊読書人 2011年11月25日号)
・ マイノリティーの叫び―スペイン語圏―(日本児童文学9-10月号 特集翻訳の舞台裏)
・Simón el bobito まぬけなシモン (NHKテレビでスペイン語 9月号巻末Leer y cantar)
・子どもの本で日本とラテンアメリカをつなぐ(日本児童文学7-8月号 児童文学のとなり)

1年を通して見ると、翻訳書は5点出版されましたが、そのうち『侍とキリスト』は5年前に訳し終えていた作品。お蔵入りかと思っていたものが日の目を見ました。
あとの4点の子どもの本は、どれも自分で見つけ、売り込んで出版にこぎつけた作品。

仕事としては、今年はこのほかに、イスパニカの講師として3本の通信添削講座(「童話で学ぶスペイン語」「児童文学翻訳」「物語を読もう」)と、6月からの講読講座を担当。スペイン大使館のニュースパニッシュブックス の春の回の委員を務め、4月から武蔵野大学非常勤講師として大学生にスペイン語を教えるようになりました。
同じく5月からJBBY(日本国際児童図書評議会)の理事となり、10月のショーン・タン氏来日講演会の実行委員、日本ラテンアメリカ子どもと本の会で12月に「開いてみよう!見てみよう!子どもの本でラテンアメリカめぐり展」の開催なども。

震災を経て、私たちはどんな未来に向かっていくのか、問い返しつつすごした1年でした。

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2011年上半期の仕事

このところ、翻訳のほかにちょこちょこと雑誌に文章を書いていますので、自分のおぼえもかねて紹介いたします。

<翻訳>
 『アリアドネの糸』(ハビエル・ソブリーノ文/エレナ・オドリオゾーラ絵/光村教育図書)
 『侍とキリスト ザビエル日本航海記』(ラモン・ビラロ著/平凡社)
 『フーくんのおへそ』(ラモン・アラグエス文/フランチェスカ・ケッサ絵/光村教育図書)

<雑誌記事>
・「子どもの本で世界をまわる12 スペイン」(全人 5月号 No.750 玉川大学出版部 インタビューを編集部がまとめ)
・La amapola アマポーラ (NHKテレビでスペイン語 4月号巻末Leer y cantar)
・「世界の雑誌ガイドその1」ブラジル、ペルー、スペインの雑誌情報 (むすびめ2000 No.74 2011.3 むすびめの会発行:日本ラテンアメリカ子どもと本の会メンバーと共著)
・Encuentro en Japón (CLIJ 239 enero-febrero: Eliacer Cansino氏と共著)

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making of 子どもの本でラテンアメリカめぐり展

03303月11日(金)の午後、私たちは翌12日(土)、13日(日)に予定されていた「子どもの本でラテンアメリカめぐり展」の設営のため、ゲートシティ大崎にいました。
未曾有の大災害のため、この展覧会は中止となりましたが、私たちがどのような思いでこれを形にしてきたかを書きとめておきたいと思い、記すことにしました。

一昨年に立ち上げた日本ラテンアメリカ子どもと本の会(クリラフCLILAJ) http://clilaj.blogspot.com は、

1)日本の人びとに、ラテンアメリカの文化や人びとのことを伝えていく。
2)日本にくらすラテンアメリカ出身者やその子どもたちが、出身地のことばや文化を大切にできるようお手伝いをする。
3)ラテンアメリカ出身者と日本人が互いの良さを認め合い、ともに生きていける社会づくりに貢献する。

という目的をかかげています。もとはといえば、ミランフ洋書店を通じて知り合った方から、在日の中南米の人たちのために、バイリンガルの絵本を作りたいと思っているという話を持ちかけられ、スペイン語にかかわる者として自分も何かできないかと思ったのがきっかけ。そして、その最初の具体的活動として考えたのが、ラテンアメリカに関する、おすすめの子どもの本リストをつくることでした。
これは、6年ほど私がかかわってきたアフリカ子どもの本プロジェクトの活動をならったものですが、昨年の2月ごろから、仲間たちと何度も集まって本を読みあい、私たちのおすすめの本のリストを作ってきました。
そんな折、毎年3月に大崎で行われる子どもの本の日フェスティバルで場所をいただけるということが確定し、図書展の準備をはじめました。

アフリカ子どもの本プロジェクトでも、「アフリカを読む、知る、楽しむ子どもの本展」という巡回展を行っていますが、その図書展と、クリラフの展覧会の大きな違いは、図書展を3カ国語の構成にしたことです。
私たちは、日本人とラテンアメリカにつながる人たちが、いっしょにラテンアメリカに関する本を手にとって楽しめる図書展にしたいと考えました。
日本人が「ふーん、ラテンアメリカってこういうところなのか」と思うと同時に、ラテンアメリカから来た人たちが、「うん、私たちのふるさとって、こういうところだよ。、日本でもこんなふうに紹介されているんだな」と思ってくれたらいいなと思い、展示する本一冊一冊に、その本でどういうことがわかるかを説明した解説を書き、それをポルトガル語とスペイン語に訳そういうことになりました。展示する数は少なくてもいいから、3カ国語の書誌の形にはしようと。
しかし、スペイン語は自分たちでなんとかするが、ポルトガル語はどうしようかと言っていたときに手伝ってくれることになったのが、東京外大在日外国人ネットーワーク~アミーゴス~の大学生です。本業とのかねあいで、日本語書誌の準備が押せ押せになったにもかかわらず、試験と就職活動などの合間を縫って、厳しいスケジュールの中、報酬も出せないというのに、ほんとうによく協力してくれました。
また、スペイン語の翻訳は、在日ペルー人の知人やスペイン人の友人にチェックをしてもらいました。お礼をできないと最初からことわっていましたが、かえって励ましていただくほどで、ありがたいことでした。
展示の本は、自分たちの手持ちの本を中心にしましたが、一部は出版社にお願いしてご寄贈いただきました。
せっかくいただいた本ですので、これからブログでじゅんじゅんに書誌とともに紹介していくつもりです。

それと、ラテンアメリカ各地で出版されている原書の絵本も展示することにしたのは、ポルトガル語やスペイン語を母語とする方が手にとったとき、自分たちのことばの美しさを確かめ、思わず子どもに読んであげたくなるといいな、こんなすてきな本もあるのかと発見してくれるといいなと思ったからです。
ラテンアメリカにつながる人たちの中には、親は日本語が苦手で、子どもは日本語しか話せないという場合もあるときいていたこと、また、内容がわかれば、日本の図書館員が中南米出身の利用者のために原書を図書館においてみようと思うかもしれないという思いから、原書の絵本には、できれば翻訳をはりこみ、そうでなくても、日本語の解説をつけました。

展示では、子どもの本の展示とべつに、ラテンアメリカの歴史を考えるコーナーをつくりました。これは、ラテンアメリカというのが日本において多くの場合、「発見された」土地として語られ、見られていることが、選書の過程で見えてきたことから発したものです。大航海時代や三角貿易など、歴史の大きな流れの中で、ラテンアメリカをとらえる視点を、なんらかの形で提供していきたいと思いました。クリラフ内で「植民地部会」と呼んでいるプロジェクトチームができ、意欲的な企画を提案していきました。
こんな本があったのかという発見もありましたが、これは部会のメンバーが、別の機会に公表していくことでしょう。

また、会場で何かイベントができないかと話し合ったとき、メンバーの1人がメキシコの切り紙細工、パペル・ピカドを持ってきたことから、パペル・ピカドチームが生まれ、どんな紙ならみんなでできるか、はさみはどうするか、説明はどうするかと盛り上がり、楽しくなってきました。上の写真で、万国旗のように天井からぶらさがっているのが、このパペル・ピカドです。

もうひとつ、本の中にこたえが見つかるクイズをできないかということで、クイズラリーが生まれました。小学校で読書指導員の経験があるメンバーが、問題は5題で十分、おもしろい3択に、と提案し、全員で問題例をだしあって、すてきなクイズ問題ができあがりました。

さらに、書誌のポルトガル語訳を担当した大学生の方が、カポエイラを習っているというのをきいて、カポエイラの先生に来て踊っていただくようお願いしました。他のイベントのじゃまにならないようにと、お昼に時間を設定し、私もはじめてじかに見る本場のカポエイラをとても楽しみにしていたのでした。

…という具合で、図書展を作っていく試行錯誤の中で、さまざまなことがありました。
今回は地震により中止となってしまいましたが、開催のお知らせをしたところ、さまざまな方から激励をいただきました。
開催はできませんでしたが、作り上げていく過程で得たものや、確認できたことを大切に、次につなげていきたいと思っています。改めて開催のお知らせをできる日がはやく来ますように。

写真は、設営準備が終わったところで、メンバーの1人が撮った携帯写真。写真ではよく見えませんが、左のガラス面には、「子どもの本でラテンアメリカめぐり展」という文字看板がおどっています。
図書展にご興味のある方は、tokioclilaj@gmail.com までご連絡ください。

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カンシーノさん来日講演会を終えて

101027_3_img1 スペインの児童文学作家エリアセル・カンシーノさんの来日講演の全日程が無事終わりました。

スペインを出発なさる前日に、今年度のスペイン国民児童文学賞の受賞が決定するというタイミングのよさ。この賞は、スペインの文科省がおくる賞で、1年間に刊行された児童書既刊書の中でもっともすぐれた作品におくられる、最高に栄誉ある賞。日本に到着の日のスペインの新聞には、「国民児童文学賞は、中学の哲学教師の手に」という見出しがおどっていました。

講演では、本の持つ意味、普段から接している10代の若者の特徴と、ご自身が文学で彼らに提示したいものなどについて、簡潔で美しい言葉で、穏やかに語りかけました。

本は私たちに光を与えてくれる。私たちにはそれぞれ、自分を待っている本があるという話から、『ドン・キホーテ』の思い出、影響をあたえた13冊の本のことなど、まずは自らの読書体験にふれました。

10代の若者とはどういうものか。子どもは、死を意識することを境に、今だけを生きる楽園の子ども時代から不確実な世界に足を踏み入れていく。若者は、自分がどこまでいけるか、境界を確かめたがり、自分をあてはめるモデルをさがしていて、自分が何者か、なんのために生きているかを知りたがっている。中には、そういう問題など関心がないという若者もいるが、彼らも本当はかならずそういうことを考え、こたえを求めている。昔も今も若者は変わっていない。……30年の教員歴から語られる言葉は、とても説得力がありました。

そういう若者に向けて書くときに、大切にしているのは、驚きと、いつもとは違った視点、奥深さ、そして、道徳的な提案。道徳的な提案とは、こうしなければならない、ああしなければならないという処方箋的なことではなく、人間の尊厳にかかわるさまざまな価値のこと。中でも、希望は何より大事だと語りました。

若者たちと向き合う大人は、どこか楽天的なところ、未来を信じるところがなければならない。人間には、頭と意志がある。頭は論理的で悲観的になりたがるが、意志は楽天的で、それでもやってみよう、希望を信じようとすると。

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カンシーノさんとは、『ベラスケスの十字の謎』を訳す過程で連絡をとりあうようになり、しばしばやりとりするうちに会いたくなって、4年前の夏にセビーリャをたずねました。日本に行きたいなあと言われ、いつか実現できないかと思っていた昨年、京都外国語大学での講義の話をきっかけに、来日が具体化しました。
セルバンテス文化センターで場所をとっていただけ、それなら、東京と京都両方で、ぜひとも子どもの本にかかわっている人の前でも話してもらいたい、中学校も訪問できないかというので各方面に協力をお願いし、5講演の予定がたちました。あてにしていた助成金がおりず、一時目の前が真っ暗になりましたが、終わってみれば、あきらめなくてよかったと心から思います。
参加の方は、スペインにも子どもと向き合って執筆をつづけている作家がいること、スペインの人々も本や読書に対して同じような思いを共有していることを実感し、勇気づけられたのではないでしょうか。
温厚なお人柄、平易だけれども深く、熱い思いのこもった言葉にますます魅せられた1週間でした。みなさま、ありがとうございました。

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父の終戦

韓国の釜山で終戦を迎えた、当時13歳だった父の思い出話。

終戦の年の春、親父が急に亡くなってね、「まだ若いのに情けない。自分と変わってやれればよかったのに」と嘆いていたじいさんが、それからいくらもしないで死んでしまった。

学校の校庭で玉音放送を聴いたとき、何を言われているのか、さっぱりわからなかった。でもすぐに、「明日から学校はない。内地に帰ったらこの書類を渡しなさい」と、学校から書類を渡されて学校は解散になった。

まもなく、近所の人が「軍属の乗る船があるが、よかったら乗せてやろう」とうちに来た。するとおふくろは、「この子と娘をのせてください。私は残ります」と言ったんだよ。びっくりしたよ。当時姉は16歳。帰ると言ったって、2年前に1度行ったことしかない、大分の親父のいとこの家が頼りだよ。行って面倒を見てくれるかもわからないのに、2人で帰れっていうんだから。一番上の兄貴が、兵隊で満州に行っていたから、おふくろはその連絡を待つというんだ。

船はもともと博多に着く予定だったが、途中で船体がいたんで志賀島に漂着した。だれかが綱をひいてつなぎとめてくれて、はしけで上陸した。翌日見たら、沖合にあるはずの船がばらばらになっていたから、間一髪だったんだな。

志賀島から、姉はおやじのいとこに迎えに来てくれるように手紙を書いた。すると、いとこの家の人と、思いがけず五高に行っていた2番目の兄貴が迎えにきてくれた。兄貴は、勤労奉仕で長崎にいるとき被爆したが、休みになったのでちょうど大分に行っていたらしい。それで、無事に親父のいとこの家についた。

あとできくと、8月になっておふくろは五高の兄になぜか200円を送金していたらしい。初任給が50円、60円の時代だから相当な金額なんだ。なぜおふくろが金を送ったのか、わからないが、おかげでいとこの家で面倒をみてもらえた。でも、居心地は悪かった。田舎で、中学に行っている子どもなんかまわりにいないのに、居候のくせに中学に行かせてもらうんだから。

9月に入って、姉が疫痢になった。死ぬ何日か前だったか、出されたおかゆを姉が食べないので食べたら、おばさんにえらい怒られてね。こっちはひもじくて仕方なかったのだけれど、ひどく後味が悪かった。

姉が死ぬ前日の夜、突然おふくろが帰ってきた。「お世話になりました」と言って、玄関で頭をさげると、リュックの肩ひもをざっと切って、中からたたんだお札を何枚も出して居候先のおばさんに渡した。釜山じゃ日本のお札はなかなか手に入らなかったのに、どうやってそんなに集めたのかわからないけど、途中でとられないように肩ひもに縫いこんで持ってかえったんだよ。おばさんも、「そんなことしなくていいのに」って、涙を流していたよ。

その翌日、姉が死んだ。学校の帰り道、近所の人に「姉さん死んだぞ、すぐ帰れ」と呼びかけられて、わけがわからず走って帰った。悲しかったなあ。半年の間に、3人も逝ってしまった。


昔、父から話を聞いたときは、「お父さん、たいへんだったんだな」と思うばかりでしたが、今年の夏、あらためて話を聞いて、母親(私から見れば祖母)のすごさ、気丈さに圧倒されました。終戦当時、父の母親は45歳。外地でつれあいを亡くしたが、とにかく子どもたちを全員無事に内地に連れ帰ること、みなで生き延びていくことだけを考えていたのだろうと思います。
その後、彼女は、和裁で暮らしを立てながら、3人の息子たちを大学に行かせ、1969年に我が家で息をひきとりました。

少年だった父の記憶をどこかに残しておこうと、ここに書いてみました。どんなりっぱな大義をかかげようと、戦争にはあくまでノーという気持ちをこめて。
黙っていることが、戦争を受容することとなる時代がこないことを祈って。

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わたしが翻訳した本たちへのおもい

上記のタイトルで、地元でトークの会を開きます。

日時:2010年6月19日(土) 13:30~16:00
場所: 調布市文化会館たづくり 1101室(和室)
     京王線調布駅から徒歩2、3分
講師: 宇野和美

主催は、子どもや本にかかわる活動をしている人たちの地元の連絡会、やかまし村。
『ペドロの作文』『ピトゥスの動物園』『ティナの明日』『ベラスケスの十字の謎』『サラミスの兵士たち』など、これまで訳してきた本の翻訳の裏話を披露する予定です。

どなたでも参加できますので、ご興味のある方は直接おいでください。

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